中小企業の経営者が、ご自身の名義で土地や建物を所有し、それを会社に貸し出して事業用不動産として活用しているケースは少なくありません。
たとえば、創業時に社長個人が融資を受けて土地を購入し、そこに工場や店舗を構えて、そのまま会社に貸しているというケースです。
これには相続リスクや事業継続リスク、さらに経営者保証ガイドラインへの抵触リスクなど、多面的な問題を抱えていることを忘れてはなりません。
とりわけ、経営者が突然亡くなった場合、不動産を相続した「会社に関与しない遺族」が「家賃を上げたい」「不動産を売却して現金化したい」と主張する恐れがあります。
さらに、相続税の納税資金に困った相続人が、不動産を手放さざるを得ないケースも考えられます。
結果として、会社は工場や店舗が使えなくなる、あるいは大幅に家賃が上昇するなど、事業運営に深刻な打撃を受ける可能性があるということです。
▶経営者保証ガイドラインとの関係にも要注意
多くの中小企業では、経営者個人が銀行借入の連帯保証人となっていると同時に、個人名義の不動産を担保にしていることが一般的です。
こうした「会社資産と個人資産の混同」は、近年公表されている経営者保証ガイドラインの趣旨にも抵触する恐れがあります。
経営者保証ガイドラインでは、経営者保証を外すための条件として「法人と経営者個人の資産・経理が分離されていること」などが明確に示されています。
しかし、実際には社長個人が名義を持つ不動産を会社が使っている場合、個人と法人の境界が曖昧になりがちです。
その結果、金融機関から見れば「会社と経営者の資産がきちんと切り離せていない」という判断につながり、経営者保証無しでの新規融資や既存融資の保証解除が難しくなる可能性もあります。
▶法人名義化・生命保険活用でリスクを回避する
では、これらのリスクから会社を守るためにはどのような対策が有効なのでしょうか。
ひとつの大きな方法は、会社が個人名義の不動産を買い取ることです。
法人名義にすれば、経営者の死亡時に相続人の都合で不動産が売却される心配がなくなり、会社は安定して事業用地を利用し続けられます。
さらに、経営者保証ガイドラインに沿った形で、法人と個人の資産が分離されていることを明確に示すことができ、将来的に連帯保証の解除を目指す際にも有利に働きます。
とはいえ、法人側がまとまった買い取り資金を用意するのは簡単ではありません。
そこで検討されるのが、法人契約の生命保険です。
社長を被保険者とする死亡保険金を会社が受け取り、相続発生時に不動産を相続人から法人が買い取るための資金に充当するスキームです。
法人が事業用不動産を買い取ってしまえば、前述したリスクを回避する事が可能です。
次回は『個人名義の事業用不動産が引き起こすリスク(後半)』にて、「経営者と対話する際に重要なこと」についてお届けします。
楽しみにしていてください!